【タウンシップが舞台!】南アフリカの性教育テレビドラマ「SHUGA: Down South」を解説
南アフリカのタウンシップ(アパルトヘイト時代の旧黒人居住地区)について、学生といろいろ話している際に知って、軽く衝撃を受けたTVシリーズを紹介しようと思います。
その名も「SHUGA(シュガー)」
Netflixで「セックス・エデュケーション」というドラマがちょっと前に話題になっていたと思いますが、南アフリカ版セックス・エデュケーションとでもいえるようなシリーズ。
タウンシップの若者の生活がリアルに描かれ(南アフリカ人のパートナー曰く、ストーリーに出てくるトラブルなどの多くは、現実の世界でも珍しくないものだそう)、一方で性教育の観点で多くの示唆があふれています。
▼ちなみに、セックス・エデュケーションを知らない人に
南アフリカ版セックス・エデュケーション?「SHUGA」って?
SHUGA(シュガー)を配信しているのは、MTVというアメリカのテレビ会社なのですが、南アフリカやナイジェリアでも人気を誇っています。
そのMTVが南アフリカの若者向けに、タウンシップを舞台に、タウンシップ文化や若者の姿をとらえたシリーズが「Shuga: Down South」です。
Season1の舞台は高校。そして、彼らが高校を卒業した後の生活を追ったSeason2があります。
同様のシリーズで、ナイジェリアを舞台にした「Shuga Naije」もあり、ともにYoutubeで全編見ることができまるようです。
こちらのシリーズは、MTV Staying Alive Fundationという、エイズ予防の活動をしている財団のスポンサーで制作されています。
そのため、物語にはエイズ関連の知識を中心に、避妊や性的合意など、健康と安全のための知識を得る機会が盛り込まれています。
タウンシップの若者がリアルに抱える問題
もちろんフィクションなので、ドラマチックに仕立ててありますが、ストーリーに出てくる若者が抱える問題は、実際に起こっていることを再現しているようです。
似たような立場の若者が見たら、共感したり、自分を重ねてみることができるといいます。
なんとなく、聞いたことがある話が、このドラマを見てビジュアル化された感じが合って、個人的にすごくおもしろかったです。
(Season2では、タウンシップを出て都市に出る人もいるので、見たことがあるエリアも多かったのもあります)
ただ、ある程度タウンシップ文化や人々が抱える問題に対して前提知識がないと楽しめないかなあと思ったので、備忘録も兼ねて"解説"ということで記事にしようと思います。
▼Season1の第1話はコチラ▼
高いHIVの感染率
南アフリカのHIV感染者数は、人口比で世界で一番多いのです。
2018年には、15歳から49歳の南アフリカ人の2割がHIVに感染しているというデータもあります。
衝撃的な数字ですが、2003-5年くらいに感染者数のピークを迎えていたので、そのころよりは改善していると思うと、かなり重大な問題だったことがわかります。
この世界銀行の平均寿命のグラフを見てもらうと、南アフリカ人の平均寿命が1990年ごろから2005年にかけて、大幅に短くなっているのがわかります。
平均寿命が10歳ほど短くなっています。
https://data.worldbank.org/indicator/SP.DYN.LE00.IN?locations=ZA
このシリーズの中でも、性暴力によって感染した人や、生まれつきHIVを持っている人などが出てきますが、それだけ身近なことでもあります。
感染拡大を食い止めるために、タウンシップなどに対しても、性教育などを積極的に行ってきた結果、現在はだいぶ改善されたようですが、それでも多くの人が感染しています。
10代の学生と教師や運転手の関係
このシリーズでも、女子高生が学校の先生やタクシーの運転手と関係をもつシーンが出てきます。
このタクシーについては、あまり日本人にはなじみがないのですが、南アフリカでいるタクシーがさすのは、ミニバスの乗り合いタクシーのことです。
このタクシーがなかなか興味深く、南アフリカ人の大切な交通手段の一つなのですが、政府や地方行政によってしっかりと規制があるものではなく、南アフリカ人曰く「ギャング」のような組織体制をしています。
実際に、派閥によって争いが合ったり(違う組織のテリトリーに侵入したら、銃殺される、など)、現金主義で脱税をしていたり、タクシーのテリトリーに公共交通機関を作ろうとしたら車両を破壊される、ミニバスのメンテナンスがしっかりされておらず、交通ルールも守らないので事故が多い…などなど。
実際に南アフリカの道路を運転すると、信じられないほど荒い運転をするタクシーが多いです。
このシリーズの中にも、タクシー運転手の若者が出てきますが、彼の父親はタクシー組織のボス。現金を数えていたり、豪華な家に住んでいたりすることから、南アフリカ人が見れば、明らかに「タクシーのボス」とわかるそうです笑
このように書くと、タクシーは恐ろしいもののように思われてしまうかもしれませんが、高校生や大学生、スーパーの店員や清掃員など、みんなが使う大事な交通手段。
高校生の女の子が、ちょっとかっこいいタクシー運転手の隣に座ることも結構あるようで、お金がない時は運転手とちょっと関係も持ってしまう、なんてことも。
10代の妊娠・出産
こうした環境で、10代にうちに妊娠してしまう人もいます。
お腹の大きな女子高生の絵もありますが、実際に起こりうることです。
タウンシップに住む20代前半で2人子どものお母さん、なんてことは珍しくも何ともありません。
日本人の大学生と話していましたが、20代の同年代、と言った時に、子どもを持っている人もいるもです。
ちなみに南アフリカでは中絶はできます。日本では手術でしか中絶できませんが、南アフリカでは、妊娠初期であれば錠剤での中絶も可能です。
ナイフで刺される事件
夜中歩いていて、もめごとが起こりお腹を指される、といったシーンや、酒屋でもめ事があってナイフが出てくる、なんてシーン。
これも現実を描写しています。
私のパートナー(南アフリカ人)も、親せきや友人で刺されたことがある人は何人かいるようです。
治安の悪い南アフリカのイメージを誇張してしまうかもしれませんが、場所によってはそうしたリスクがものすごく高いところと、そうでもないところがあるのも事実。
リスクが高いところに行かない、特にリスクが高い時間帯は近づかない。そうした場面に出くわしたら、決して抵抗しないことが重要です。
タウンシップ内の格差
タウンシップ、と一言で言っても、さまざまなソーシャルクラスがあることも、このドラマに描かれています。
タクシー組織のボスの家庭は大きな豪邸のようですし、一般的な一軒家もあります。一方トタン屋根でてきたシャークと呼ばれる貧困地域まで。
そうしたさまざまな経済レベルの家の子どもたちが、同じエリアの学校に通っている様子も、一言で語ることができないタウンシップの現実を表しています。
LGBTQ+のひとたち
ドラマの中には、ゲイの男の子が出てきます。
南アフリカは同性婚が合法で、LGBTQ+の人も法律上は権利が認められ、都心に行けば同性カップルを見かけることも珍しくありません。
ヨハネスブルグの都心にいる限り、日本よりも、オープンにそうした話ができる空気を感じます。
しかし、タウンシップコミュニティや田舎など、まだまだセクシャルマイノリティが受け入れられきっていないところもあります。
ドラマでも、ゲイであることから父親に家から出るように言われ、高校卒業後ヨハネスブルグに出て行ったキャラクターが描かれています。
卒業後の進路
シーズン2の話になりますが、同じ高校に行った人でも、家庭環境や学力によって、全く違う生活を送っていく人達。
奨学金で進学する人、就職する人、子どもを持ちながら起業するひと、歌手を目指す人、都会のゲイコミュニティで生きる人…
ギャングに近いところで生きている人は、ちょっとしたきっかけで黒い世界に行ってしまったり、いろいろ考えさせられます。
ところどころに教育的な要素が
HIVテストはどうするの?
HIV陽性だと恋愛できないの?
避妊はどれで十分?
どうやって避妊具にアクセスする?
性的同意はどうすればいいの?
LBGTは病気なの?
夫が妻に暴力をふるうことは問題なの?
HIV陽性かどうか知る権利はあるの?
などなど。ストーリーを通して学ぶこともありますが、物語の途中に出てくる質問を通して、性教育やサーベイが行われています。
気になる方は、ぜひYoutubeで視聴してみてください!
所得格差を表すジニ係数が世界最悪
HIVの感染爆発
などなど大きな問題を抱える南アフリカ。
また、アパルトヘイト時代の遺産ともいえるタウンシップの生活、文化。
こうしたことに関心がある人にはぜひおすすめのシリーズです。
性教育に関しては、日本も決して進んでいるとはいえず、日本人の私たちも学ぶことがあると思います。
全編英語(一部他の言語も出てきますが、英語字幕あり)なので、英語がわかる方はぜひ、Youtube をチェックしてみてください!